判決文

 

 

平成九年(ワ)第一九四四四号 出版差止等請求事件

口頭弁論終結の日 平成一〇年一一月一七日

 

判    決

 

(住所略)

原告 名木田 恵子

右訴訟代理人弁護士 伊東 大祐

(住所略)

被告 五十嵐 優美子

(住所略)

被告 株式会社フジサンケイアドワーク

右代表者代表取締役 小川 武夫

右被告両名訴訟代理人弁護士 山崎 和義

同 熊 隼人

同 鈴木 謙

 

主    文

 

一 原告と被告らとの間において、別紙目録一記載の漫画及び同二記載の絵につき、原告が右漫画及び絵を二次的著作物とし漫画「キャンディ・キャンディ」の原作を原著作物とする原著作者の権利を有することを確認する。

二 被告らは、別紙目録三記載の絵を作成し、複製し、又は配布してはならない。

三 訴訟費用は被告らの負担とする。

 

★注 「訴訟費用」とは提訴の印紙代等裁判所に納めた費用などをいうものであり、弁護士に支払った費用を含まないものである。

 

事実及び理由

 

第一 請求の趣旨

一 原告と被告らとの間において、別紙物件目録一及び同二記載の著作物につき、原告が、共同著作物の著作者の権利又は右各著作物を二次的著作物とし、漫画「キャンディ・キャンディ」の原作を原著作物とする原著作者の権利を有することを確認する。

二 主文第二項と同旨

 

第二 当事者の主張

一 請求原因

1 原告は、漫画の原作、児童文学作品等を主な活動領域とする著述家であり、「水木杏子」のペンネームを使用している。

 被告五十嵐優美子(以下「被告五十嵐」という。)は、漫画家であり、「いがらしゆみこ」のペンネームを使用している。

 被告フジサンケイアドワーク(以下「被告アドワーク」という。)は、広告業務を目的とする株式会社である。

2 漫画「キャンディ・キャンディ」(以下「本件連載漫画」という。)は、株式会社講談社発行の月刊少女漫画雑誌「なかよし」(以下「なかよし」という。)の昭和五〇年四月号から同五四年三月号までに掲載された連続したストーリーを有する漫画であり、連載全体として一つの著作物である。

3 本件連載漫画は、連載の各回ごとに、原告がストーリーを創作し、小説形式にした原稿を作成してこれを被告五十嵐に渡し、被告五十嵐が右原稿に基づいて漫画を作成するという手順で制作されたものであるから、本件連載漫画は、原告と被告五十嵐の共同著作物、又は、原告の創作に係る漫画の原作という言語の著作物を翻案することにより創作された二次的著作物である。

 したがって原告は、本件連載漫画につき、共同著作物の著作者の権利、又は、これを二次的著作物としその原作を原著作物とする原著作者の権利を有する。

4 別紙目録一記載の漫画について

(一)別紙目録記載一の漫画(以下「本件コマ絵」という。)は、「なかよし」に掲載された本件連載漫画の一コマであるから、これについても原告は、共同著作物の著作者の権利、又は、これを二次的著作物としその原作を原著作物とする原著作者の権利を有する。

(二)被告らは、原告が右各権利を有することを争っている。

(三)よって、原告は、原告と被告らとの間において、本件コマ絵につき、原告が、共同著作物の著作者の権利、又は、右漫画を二次的著作物とし本件連載漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利を有することの確認を求める。

5 別紙目録二記載の絵について

(一)別紙目録二記載の絵(以下「本件表紙絵」という。)は、本件連載漫画の連載期間中に、被告五十嵐が作成し、「なかよし」の表紙に掲載された本件連載漫画の主人公キャンディを描いた絵であり、本件連載漫画の一部、又は、本件連載漫画における主人公キャンディの絵を複製若しくは翻案したものである。

 そして、本件表紙絵が本件連載漫画の一部であれば、これについて、原告は、共同著作物の著作者の権利、又は、これを二次的著作物とし本件連載漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利を有する。また、本件表紙絵が本件連載漫画における主人公キャンディの絵を複製若しくは翻案したものであれば、本件表紙絵は、原告の創作に係る本件連載漫画の原作との関係でも二次的著作物になるというべきであるから、これについて原告は、これを二次的著作物とし本件連載漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利を有する。

(二)被告らは、原告が右各権利を有することを争っている。

(三)よって、原告は、原告と被告らとの間において、本件表紙絵につき、原告が、共同著作物の著作者の権利、又は、右絵を二次的著作物とし本件連載漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利を有することの確認を求める。

6 別紙目録三記載の絵について

(一)原告は、本件連載漫画について、共同著作物の著作者の権利、又は、これを二次的著作物としその原作を原著作物とする原著作者の権利を有する。

(二)別紙目録三記載の絵(以下「本件原画」という。)は、被告五十嵐が平成一〇年八月上旬に書き下ろしとして作成したものであり、被告アドワークは、被告五十嵐の許諾を受けて、右絵を原画とするリトグラフ及び絵はがきを作成し、販売しようとしている。

(三)本件原画は、本件連載漫画の主人公キャンディを描いたものであり、本件連載漫画における主人公キャンディの絵を複製又は翻案したものである。

(四)よって、原告は、被告らに対し、本件連載漫画についての、共同著作物の著作者としての著作権(複製権若しくは翻案権)、又は、これを二次的著作物としその原作を原著作物とする原著作者としての著作権(複製権若しくは翻案権)に基づき、本件原画を作成し、複製し、又は配布することの禁止を求める。

二 被告らの請求原因に対する認否

1 請求原因1及び同2の事実は認める。

2 同3のうち、本件連載漫画が連載の各回ごとに原告が小説形式の原稿を作成してこれを被告五十嵐に渡し、被告五十嵐が右原稿をみて漫画を作成するという手順で制作されたことは認め、その余は争う。

3(一)同4(一)のうち、本件コマ絵が「なかよし」に掲載された本件連載漫画の一コマであることは認め、その余は争う。

(二)同4(二)の事実は認める。

(三)同4(三)は争う。

4(一)同5(一)のうち、本件表紙絵が本件漫画の連載期間中に被告五十嵐が作成し、「なかよし」の表紙に掲載された本件連載漫画の主人公キャンディを描いた絵であることは認め、その余は争う。

(二)同5(二)の事実は認める。

(三)同5(三)は争う。

5(一)同6(一)は争う。

(二)同6(二)の事実は認める。

(三)同6(三)のうち、本件原画が本件連載漫画の主人公キャンディを描いたものであることは認め、その余は争う。

(四)同6(四)は争う。

三 被告らの主張

1(一)以下のような事情によれば、本件連載漫画は、被告五十嵐が単独で創作した著作物であって、原告と被告五十嵐との共同著作物であるとはいえない。

(1)本件連載漫画のコンセプトは、被告五十嵐が考え、原告が原稿を作成する前に、原告に提示したものである。

(2)被告五十嵐は、本件連載漫画を作成するに当たって、原告が作成した原稿の内容をそのまま使用するのではなく、原告の同意を得ることなく、ストーリー展開や吹き出しの台詞を変更し、ときには著述の一部分をカットしたり、著述にないストーリーを付加したりしていたのであり、本件連載漫画の基本部分やストーリーの骨子は、むしろ被告五十嵐の創作によるものである。

(3)本件連載漫画における登場人物の容姿・顔立ち・髪型・服装、情景、時代設定については、原告の原稿には具体的な指示がなされておらず、被告五十嵐の独創によるものである。

(4)原告が、被告五十嵐に対して、本件連載漫画の基本的構成や吹き出しの台詞について具体的な指示を与えたり、被告五十嵐が作成した漫画について、台詞を修正したり、漫画の細部について注文をつけて被告五十嵐に手直しをさせたりしたことはない。

(二)また、以下のような事情によれば、原告作成の原稿は、被告五十嵐が本件連載漫画を作成するに当たって、これから着想、アイデア、ヒントを得ただけの参考資料にすぎず、これを翻案して本件連載漫画が作成されたものではないから、本件連載漫画は、原告作成の原稿の二次的著作物とはいえない。

(1)原告作成の原稿は当初より完成した一つの話として出来上がっていたものではなく、原告は、被告五十嵐が作成した各連載回の漫画をみてから、これに合わせて次回連載分の原稿を作成していたのであるから、本件では、漫画の作成時に原告作成の著作物の基本部分や筋が完成していなかったのであり、被告五十嵐において、完成した原告の著作物の基本的構成や筋を前提とし、それを変更せずに、表現形式のみを変更して本件連載漫画を完成させたわけではない。

(2)被告五十嵐は、原告作成の原稿を大幅に変更して本件連載漫画を作成していたのであり、本件連載漫画の基本部分やストーリーの骨子は、むしろ被告五十嵐が作成していたといえる。

2 仮に、原告が本件連載漫画について、共同著作物の著作者の権利、又は、これを二次的著作物としその原作を原著作物とする原著作者の権利を有するとしても、本件連載漫画における登場人物の絵は、専ら被告五十嵐の独創によるものであり、原告の創造性は全く介入していないのであるから、本件連載漫画のコマの中の絵でなく、被告五十嵐が新たに書き下ろした絵である本件原画について、原告には、被告五十嵐及び同被告から許諾を得た被告アドワークに対して使用の差し止めを求める権利はないというべきである。

 

第三 当裁判所の判断

一 請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

二 本件連載漫画が原告の創作に係る原作を原著作物とする二次的著作物であるかどうかについて(請求原因3について)

1 <証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、本件連載漫画の制作経過等に関し、以下の事実が認められる。

(一)本件連載漫画は、昭和四九年一一月ころ、当時講談社との間で専属契約を結んでいた被告五十嵐の「なかよし」における新連載として企画され、「なかよし」編集部によって、原作者を付すことが決められ、その原作者として原告が人選された。そして、そのころ、原告、被告五十嵐、担当編集者の間で、「あしながおじさん」や「赤毛のアン」などのいわゆる名作物のように、孤児の少女が逆境にめげずに幸せになっていくという、本件連載漫画のストーリーの基本的な構想が決められた。

(二)その後、本件連載漫画は、各月の連載回ごとに、おおむね以下のような手順により制作された。

(1)原告が、各回ごとの具体的なストーリーを創作し、これを四〇〇字詰め原稿用紙三〇枚から五〇枚程度の小説形式の原稿にして担当編集者に渡す。その際、担当編集者が原稿をみて要望を述べ、それに応じて原告が手直しをする場合もある。

(2)右原稿のコピーを担当編集者が被告五十嵐に渡す。被告五十嵐は、右原稿を読み、漫画化に当たって使用できないと思われる部分を除き、その他の部分に基づいて、紙面にコマ割を行い、絵を簡略化した形で描き、吹き出しの台詞などを加えた「ネーム」と呼ばれる漫画の草案を作成する。この段階で、出来上がった「ネーム」を担当編集者に見せて打ち合わせを行い、必要があれば被告五十嵐が手直しを行う。

 「ネーム」作成の段階で、原稿が分量的に一回の連載に収まり切らない場合には、担当編集者から原告にその旨連絡して、原告の了解を得る。その際、新しい終わり方について、原告が新しいアイデアを出したり、原稿の修正をすることもある。

(3)このようにして出来上がった「ネーム」に基づいて、被告五十嵐が鉛筆で漫画の下書きを作成し、その際に人物の服装や背景等が決められる。その後、被告五十嵐が右下書きにペンを入れ、最後に鉛筆の下書きを消して漫画が完成する。

(4)原告は、当該回の漫画のゲラ刷りをみた上で、それに続く次回連載分の原作原稿を作成し、当該回の原稿が一回の連載に収まり切らずに途中で終わる場合には、その部分から始まる次回用の原作原稿を新たに作成する。

(三)本件連載漫画の各連載回の扉頁、本件連載漫画の単行本(講談社発行)及び文庫本(中央公論社発行)の各巻の表紙には、いずれも「原作 水木杏子」という形で、原告のペンネームが表示されている。

 また、これまで、第三者によって本件連載漫画の二次的利用がされる場合には、原告も本件連載漫画の著作権者あるいはその原著作物の著作権者として契約当事者となっており、平成七年一一月一五日には、原告と被告五十嵐との間で、本件連載漫画の二次的利用に関して、双方の同意を要すること、使用料を一定の割合に応じて配分することなどを内容とする契約が締結された。

2(一)原告作成に係る原作原稿の内容とこれに対応する本件連載漫画の内容とを、証拠に現われた範囲(具体的には<証拠略>が、それぞれ原作原稿とこれに対応する本件連載漫画である。)で対比すると、以下のとおりのことが認められる。

(1)本件連載漫画の各連載回ごとの具体的なストーリーの展開、すなわち、いかなる時と場所において、いかなる人物が登場し、いかなる意図の下に、いかなる行動をして、場面が展開していくかについては、おおむね原作原稿の内容に沿ったものとなっている。原作原稿にある場面が省略されていたり、原作原稿にない場面が付加されていたり、場面展開の順序が原作原稿と異なったりする部分も一部にみられるが、それによってストーリーの基本的な展開が異なるとまで評価できるものではない。

(2)本件連載漫画中の登場人物の吹き出しの台詞や内面における思考・心情の記述につては、原作原稿の記載をそのままあるいは同趣旨の内容を多少表現を変えて用いているものが多く、原作原稿にないものを付加していたり、原作原稿にあるものを省略している部分もみられるが、それによってストーリーの基本的な展開に変更を来すようなものではない。

(3)人物の表情・服装・動きや風景については、原作原稿中に指示があり、これに基づいて漫画が作成されている部分もあるが、原作原稿中に格別の指示がない部分もある。

(二)右の対比結果は、本件連載漫画のうちの一部の連載回に関するものであるが、原告本人尋問の結果に前記1のような本件連載漫画制作の経過等を併せて考慮すれば、本件連載漫画の内容と原告作成に係る原作原稿の内容との関係は、他の連載回も含め全体として、おおむね右対比結果と同様のものであると認められる。

3(一)以上のとおり、本件連載漫画は、当初から原告が作成した原作原稿を被告五十嵐が漫画化するものとして「なかよし」編集部によって企画され、実際にも連載の各回ごとに原告が小説の形式で原作原稿を作成し、これを被告五十嵐が漫画化するという手順で制作が行われたものであり、本件連載漫画とこれに対応する右原作原稿の各内容を対比してみても、前記のとおり、本件連載漫画はおおむね原作原稿の記載内容に沿って具体的なストーリーが展開され、登場人物の吹き出しの台詞や思考・心情の記述もその多くが原作原稿中の記載に基づくものと認められる、また、出版物における著者の表示や二次的利用の際の権利関係の処理においても、原告は、終始、本件連載漫画につき原作者としての権利を有するものとして処遇され、被告五十嵐もこれを容認してきたものである。

 これらの事情を総合すれば、本件連載漫画は、連載の各回ごとに、原告の創作に係る小説形式の原作原稿という言語の著作物(右原作原稿が、思想又は感情を言語によって創作的に表現したものであって著作物性を有することは、連載の一部の回に係る原作原稿である<証拠略>から明らかである。)の存在を前提とし、これに依拠して、そこに表現された思想・感情の基本的部分を維持しつつ、表現の形式を言語から漫画に変えることによって、新たな著作物として成立したものといえるのであり、したがって、本件連載漫画は、原稿の創作に係る原作原稿という著作物を翻案することによって創作された二次的著作物に当たると認められる。

(二)被告らは、前記第二、三1(二)記載のとおり、本件連載漫画が原告作成の原作原稿を翻案した二次的著作物であることを否定し、その根拠として、@原告作成の原作原稿は当初より完成した一つの話として出来上がっていなかった、A被告五十嵐は原告作成の原作原稿を大幅に変更して本件連載漫画を作成しており、本件連載漫画の基本的部分やストーリーの骨子は被告五十嵐が創作した、と主張する。

 しかしながら、前記1(二)のとおり、本件連載漫画は、連載の各回ごとに、原稿がその回に掲載されるストーリー部分を小説の形式で原稿に記載し、これに依拠して被告五十嵐が当該連載分の漫画を作成するという手順を繰り返すことによって制作されたものであり、連載の各回ごとの漫画がそれに対応する分の原作原稿を翻案したものということができるから、結局、本件連載漫画全体が、原告の創作に係る原作原稿全体を翻案した二次的著作物と評価されるものというべきである。原作原稿は、本件連載漫画の作成前に、完結した作品として存在したものではないが、このようなことは例えば連続テレビドラマの制作過程における脚本とドラマ撮影の間などにおいても生ずることであり、原著作物があらかじめ完結した作品として存在することが、それに基づく二次的著作物が成立するための要件となるものではない。右のとおり、被告らが主張する右@の点は、本件連載漫画が原告作成の原作原稿の二次的著作物であることを否定する理由とならない。

 右Aの点については、前記2(一)のとおり、原告作成に係る原作原稿の内容とこれに対応する本件連載漫画の内容とを対比しても、一部において、場面の省略、付加、順序の入れ替えなどが認められるものの、ストーリーの基本的な展開において、被告五十嵐が原告作成の原作原稿を大幅に変更して本件連載漫画を作成したとは認められず、本件連載漫画のストーリーの骨子を創作したのが被告五十嵐であるとは到底いえない。なお、この点に関し、被告らは、乙号証として提出した本件連載漫画の一部とこれに対応する原作原稿とを対比し、その相違点について縷々主張するが(その詳細は、<証拠略>について被告準備書面(一)、<証拠略>について被告準備書面(三)を各参照)、いずれも物語の細部における変更にすぎず、ストーリーの基本的な展開を変更するものとはいえない。また、被告らは、右主張の中で、人物の容姿・表情・服装、背景について原作原稿中に具体的な指示がなく、専ら被告五十嵐がこれらを創作したことを指摘するが、右のような点は、言語の著作物を漫画の形式に翻案するに当たって、本来漫画家が創作性を発揮すべき作画表現の問題というべきであるから、このような点について原作原稿中に具体的な指示がないとしても、それによって、本件連載漫画が原告作成に係る原作原稿の翻案であることを否定する理由にはならない。

 したがって、右@及びAのような事情を根拠として、本件連載漫画が原告作成の原作原稿を翻案した二次的著作物であることを否定する被告らの主張は、採用できない。

三 本件コマ絵について(請求原因4について)

1 請求原因4(一)のうち、本件コマ絵が「なかよし」に掲載された本件連載漫画の一コマであることは当事者間に争いがないところ、前記二のとおり、原告は、本件連載漫画について、これを二次的著作物とし、その原作を原著作物とする原著作者の権利(著作権法二八条)を有するものと認められるから、本件連載漫画の一部である本件コマ絵についても、右同様の権利を有するものといえる。

2 請求原因4(二)の事実は、当事者間に争いがない。

3 したがって、原告と被告らとの間において、本件コマ絵につき、原告が右漫画を二次的著作物とし本件連載漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利を有することの確認を求める原告の請求は、理由がある。

四 本件表紙絵について(請求原因5について)

1 請求原因5(一)のうち、本件表紙絵が、本件連載漫画の連載期間中に被告五十嵐が作成し「なかよし」の表紙に掲載された絵であって、本件連載漫画の主人公キャンディを描いたものであることは当事者間に争いがない(本件表紙絵は、これを本件連載漫画中のキャンディの絵(<証拠略>)と対比しても、容貌や髪型などの特徴に照らし、本件連載漫画におけるキャンディを描いたものであることは明らかである。)。そうすると、本件表紙絵は、本件連載漫画のどの場面の絵に対応するものであるかを特定するまでもなく、本件連載漫画のキャンディの絵の複製に当たるというべきである。

 他方、前記二のとおり、本件連載漫画は、原告の創作に係る原作の二次的著作物に当たるものであるから、本件連載漫画のキャンディの絵の複製物である本件表紙絵についても、やはり原告の創作に係る原作との関係において、二次的著作物に当たるというべきである。

 したがって、原告は、本件表紙絵についても、これを二次的著作物とし本件連載漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利(著作権法二八条)を有するものといえる。

2 請求原因5(二)の事実は、当事者間に争いがない。

3 したがって、原告と被告らとの間において、本件表紙絵につき、原告が右絵を二次的著作物とし本件連載漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利を有することの確認を求める原告の請求は、理由がある。

五 本件原画について(請求原因6について)

1 前記二のとおり、原告は、本件連載漫画につき、これを二次的著作物としてその原作を原著作物とする原著作者の権利を有し、したがって、本件連載漫画の利用に関し、その著作者が有するものと同一の種類の権利を専有するから(著作権法二八条)、本件連載漫画の絵について複製権を有する(同法二一条)。

2 請求原因6(二)の事実は当事者間に争いがない。

3 請求原因6(三)のうち、本件原画が本件連載漫画の主人公キャンディを描いたものであることは当事者間に争いがない(本件原画は、これを本件連載漫画中のキャンディの絵(<証拠略>)と対比しても、容貌や髪型などの特徴に照らし、本件連載漫画におけるキャンディを描いたものであることは明らかである。)。そうすると、本件表紙絵の場合(前記四1)と同様に、本件原画も本件連載漫画のキャンディの絵の複製に当たるというべきである。なお、被告五十嵐は二次的著作物たる本件連載漫画の著作権者であり、被告アドワークは本件原画の複製につき被告五十嵐から許諾を受けた者であるが、二次的著作物の著作権者であっても、原著作物の著作権者の許諾なく二次的著作物を利用することは許されない(本件において、本件原画の作成ないしその複製につき、被告らが原告の許諾を得ていないことは、当事者間に争いがない。)。

4 したがって、被告らに対し、本件連載漫画を二次的著作物としその原作を原著作物とする原著作者として有する本件連載漫画の複製権に基づいて、本件原画の作成、複製、又は配布の差止めを求める原告の請求は、理由がある。

5 被告らは、本件連載漫画における登場人物の絵が専ら被告五十嵐の独創によるものであり、そこには原告の創造性が全く介入していないとして、原告には、本件連載漫画の登場人物につき被告五十嵐が新たに書き下ろす絵については、その作成等を差し止める権利はない旨を主張する。

 被告らの右主張の趣旨は、要するに、本件連載漫画における絵の部分は専ら被告五十嵐が創作したのであるから、本件連載漫画を絵という表現形式においてのみ利用することは、被告五十嵐の専権に属するというにある。しかしながら、前記認定のとおり、本件連載漫画は、原告の創作に係る原作という言語の著作物を、被告五十嵐が漫画という別の表現形式に翻案することによって、新たな著作物として成立したものであり、右翻案に当たっては、漫画家である被告五十嵐である被告五十嵐による創作性が加えられ、特に絵については専ら被告五十嵐の創作によって成立したことは当然のことというべきであるが、このようにして成立した本件連載漫画は、絵のみならず、ストーリー展開、人物の台詞や心理描写、コマの構成などの諸要素が不可分一体となった一つの著作物というべきなのであるから、本件連載漫画中の絵という表現の要素のみを取り上げて、それが専ら被告五十嵐の創作によるからその部分のみの利用は被告五十嵐の専権に属するということはできない。そして、前記のとおり、本件連載漫画が原告作成の原作との関係において、その二次的著作物であると認められる以上、原告は、絵という要素も含めた不可分一体の著作物である本件連載漫画に関し、原著作物の著作者として、本件連載漫画の著作者である被告五十嵐と同様の権利を有することになるのであり、他方、本件原画のような本件連載漫画の登場人物を描いた絵は本件連載漫画における当該登場人物の絵の複製と認められるのであるから、これを作成、複製、又は配布する被告らの行為が、原告の有する複製権を侵害することになるのは当然である。

六 よって、主文のとおり判決する。

 

東京地方裁判所民事第四六部

 

裁判長裁判官 三村 量一

   裁判官 長谷川 浩二

   裁判官 大西 勝滋

 

<目録一ないし三 略>

 

 

判決後の気持ち

水木杏子

 

以上が2月25日に下された「判決文」の全文です。まず、この判決は「キャンディ・キャンディ」のことに関し、<このケースでは>という<ただし書き>が付く事を明記しておきます。法律の言葉は難解で一度読んだくらいでは、なかなか理解出来ないかもしれません。わたしも同じで何回も読みました。まず、「主文の一」にあった「二次的著作物」「原著作者」についてわたしが理解している事をご説明します。

著作物には「共同著作物」と「二次的著作物」が有る事をわたしは今回はじめて知りました「共同著作物」は言葉通り物語と絵が渾然一体となったつまり、ふたりで物語にも絵にもかかわる作品をさすといいます。

「二次的著作物」とは物語にそって作品がつくられていく、そういった過程の作品をさすそうです。まず、「物語があり」そして「作品」が生まれる、ということです。

「キャンディ・キャンディ」に関して、いがらし氏の主張は<水木と会う前から物語はできていた>あるいは<物語のほとんどを自分が考えた>というものでした。しかし、原作原稿が残っていたので「被告らは原作原稿と漫画を対比し、その相違点について鏤々主張するが、いずれも細部における変更にすぎない」と退けられています。「キャンディ・キャンディ」の作品全体を通すと、担当編集者を含めて漫画家と力をあわせてひとつの作品にしあげたのですから、わたしの認識としては「共同」の「作品」であると思っています。しかし、本来一人で描けるはずの漫画に「原作」をわざわざつける意味は「物語作者」としての仕事を与えられるわけですから「物語」は「共同」ではありません。「キャンディ」の場合は自分の心の中から生まれた「物語」だと断言できます。

わたしは、簡単に「分離」できるのが「原著作物」と理解しました。「原著作者」は独

立して「小説」を執筆、発表できます。その際「著者」は「原作者」であり「漫画家」は「絵」と表示されます。わたしの「小説キャンディ・キャンディ全3巻」もそうでした。今回の判決「主文その二」で「目録三の絵を作成、複製、又は配布してはならない」とありこの「目録三」とは、いがらしさんが最近描かれたキャンディの絵のことです。

これだけ読むと、大変厳しいことに思えます。いがらしさんがコメントで「色紙も自由に描けなくなる」といっておられますが、そういうことではありません。ごく常識的なこと「ふたりの作品だから、キャンディの絵を使って勝手にビジネスをしてはいけません」といっているにすぎません。この事件がなければ、「当たり前」のこととして、だれも取りたてて確認する必要さえなかったことでした。現に20年前、キャンディがアニ

メ化されたときも「当然のこと」として東映アニメは「いがらし、水木」ふたりの了解のもとに商品化していたのですから。それが、講談社、東映との契約が切れフリーになったら「原作者」から絵の権利がなくなる、というのはおかしなことです。

 

わたし個人の考えとしてはいがらしさんが「ビジネス」ではなく「絵」を描かれることは全く自由と思っています。原画を描かれることにまで口をはさむことなどできません。

まして、その原画を売られた「配分」を要求する気もさらさらありません。せめて礼儀として、「原画展」の案内くらいはしてほしいな、と思っているくらいです。しかし、「サイン会」で「色紙」を買った人にのみサインをすると聞き(2000円と聞いています)そのことには違和感を覚えます。わたしの考えでは「色紙」へのサインはファンサービ

スだと思っているからです。むろん、いがらしさんのファンがよければ余計なことですが・・

繰り返し書きますが、この事件の発端は「著作権」のことではありませんでした。

ふたりの間の「契約違反」を問題にしたのです。いがらしさんの主張を簡単にまとめると「絵は自分が描いたので、ビジネスをするのにいちいち原作者の了解などとりたくない。自由に使いたい。」と言う事だと思います。しかし、判決文にもあったようにこの作

品は「不可分一体となった一つの著作物というべき」なのです。

いがらしさんがビジネスをしたいなら、水木に相談してほしかった……「なんでも反対した」といっておられるようですが、「相談」されなければ「反対」もできません。

この判決によりわたしは「原作者」としてのいままで当然だった立場が「法的」に明確になりました。それを喜んでいいのか、今、複雑な気持ちです。

 

判決のあとの<経緯>

            弁護士 向井千景

平成11年 2月25日

判決

        26日

(株)カバヤ及び(株)向日葵<倉敷の美術館>の各代

理人弁護士宛に2月25日判決の写しを郵送。

      3月 3日

(株)カバヤ代理人塚本弁護士に対し電話でカバヤが昨

年12月中にキャンディ・キャンディの飴の発売を中止し

たことを確認。当職は販売数量等の情報開示を要請。

塚本弁護士はこれを了解。(しかしながら4月8日現在、

回答なし。)

         3日

(株)ダン・エンタープライズ(キャンディグッズの版

元)の代理人弁護士伊藤真弁護士と面談。グッズに関す

る契約書等の情報開示を要請。伊藤弁護士はこれを了解。

また、今後販売を予定している部分についての販売中止

を約束。

         3日

キャンデイ・キャンディ・ネット(いがらし氏公認の

ホームページ>でオンラインショッピングで文房具類

数種、通販開始。

      3月 4日

水木の代理人伊東大祐弁護士(控訴担当)よりネットの

管理人および管理会社アートワークスペースに抗議と警

告のEメール。

      3月 5日

いがらしゆみこ氏 控訴

      3月 9日

(株)向日葵の代理人唐沢弁護士と面談。倉敷の美術館

におけるグッズの販売中止を要請。

         9日

オンラインショッピングで財布5種、カバン7種追加。

      3月11日

フジサンケイアドワークに対し販売絵画の状況、数量等

の情報を開示するよう内容証明発送。

        11日

ダンの代理人伊藤真弁護士と面談。伊藤弁護士より、

いがらし氏の新たな代理人弁護士を交えて面談したい

との申し入れがあり、当方了解。

        11日

オンラインショッピングでさらにティッシュケース6種

追加。

      3月13日

いがらし氏のホームページ、オンラインショッピングで

また、さらに携帯ストラップ、携帯ケースなど携帯用品

追加。

      3月14日

オンラインショッピングでパズルを追加。

      3月16日

オンラインショッピングでキーホルダー追加。

      3月17日

オンラインショッピング記念5%還元セール。

      3月17日

キャンディ・ネット管理人宛抗議の内容証明発送。

      3月18日

フジサンケイアドワーク代理人より回答書。五十嵐氏代

理人山崎和義弁護士との間で、五十嵐側が責任を負うと

合意があるとの回答。

        18日

東京弁護士会にて五十嵐氏代理人本橋弁護士、ダン代理

人伊藤真弁護士と面談。五十嵐側の言い分を聞く。

        18日

キャンディ・ネットのオンラインショッピング停止。

      3月19日

フジサンケイアドワーク代理人宛に法的対応をすることを

内容証明にて通告。

        19日

業界誌「キャラ通」誌上で(株)アップルワンがパズルの宣

伝。浜田氏のコメント「この裁判がいい宣伝になったかも」

の記事に当職が強く抗議。(株)アップルワンは「キャラ通」

に訂正、謝罪文を載せること約束。

      3月23日

(株)向日葵<倉敷の美術館>代理人唐沢弁護士から、グッ

ズ販売を当面中止しない、との回答

      3月24日

東京弁護士会にて五十嵐氏代理人本橋弁護士、ダン代理人伊

藤真弁護士と面談。本橋弁護士の言い分を再度、聞く。

      3月26日

倉敷「いがらしゆみこ美術館」を現地調査。

本橋弁護士に本当に和解する気持ちがあるならば、展示会開

催の日時、場所等についての質問に答えて欲しいと書面を送

付。(4月8日現在 回答なし。)

      3月27日

いがらしゆみこ氏ファンクラブの「会報」でグッズ「通販」

開始。

      4月 1日

カバヤ代理人塚本弁護士に電話。塚本弁護士はフジサンケイ

アドワーク(カバヤの飴の契約会社と聞いている)が問題の

解決に協力的でないので苦慮しているとのこと。特に山崎和

義弁護士のこれまでの対応を非難。フジサンケイアドワーク

との話がつけば連絡するとのこと。

      4月 8日

「キャンディ・キャンディ・ネット」の「管理人」

インターネットの会社、及び(株)向日葵(いがらしゆみこ

美術館)を相手取り、仮処分申し立て。

 

 

< 今後については、随時ご報告いたします。>

 

 …………………………………………

 

 

 判決後、一ヶ月の所感

 

 

 

 

           水木杏子

 

 

 

 「判決」は水木杏子を原作者と認め、(水木の承諾のない<商品>を売っては

 

 ならない)というものでした。現在、出回っている商品のすべてが<未承諾>

 

 の<不正グッズ>なのです。

 

 

 

 判決後、「もう、落ち着かれましたか?」そう聞かれ、言葉につまります。

 

 あれだけ新聞等で報道されたのにもかかわらず、問い合わせてきた業者はただ

 

 <(株)パートナー > 一社でした。

 

 いがらしさんはインターネットで、判決後一週間もしないうちに「通販」をは

 

 じめました。<倉敷の美術館>も「控訴しているので大丈夫なんです。」と従

 

 業員に言わせ、そのまま続行、こちらの<抗議>には<販売は中止しない>と

 

 弁護士を通じて堂々といってくる有り様です。

 

 ちまたに出回った<不正グッズ>も「和解中。お金をはらうから何とかなる」

 

 と業者にいって、(株)ダンはそのまま販売を続行させています。

 

 (情報の一部は開示してくれましたが。)

 

 判決前とほとんど変化がない、というあきれた状態なのです。

 

 この事件で学んだことは民事裁判では判決が出ても、改めて<損害賠償><慰

 

 謝料>の請求の訴えを起こさない限り<悪質なひとたち>の行動は止まらない

 

 ということでした。<法>は裁くだけで、民事事件の場合、当事者の良識の問

 

 題、つまり<精神>に訴えることは難しいと悟りました。

 

 

 

 わたしも二人の弁護士も断固として<不正>に立ち向かい、刑事告訴を含め新

 

 たな訴えを起こすつもりでいます。しかし、その前に、<向こうの言い分>聞

 

 かなくては、とこの一ヶ月余り費やしてきました。和解の気持ちも少しはある

 

 ようなそぶりを見せたからです。けれど、それはただ「時間稼ぎ」をしていた

 

 にすぎないと分かりましまた。

 

 

 

 いがらしさんは和解してもいいと言いつつ控訴し、ホームページの「通販」に

 

 抗議すると停止はしましたが、こんどはファンクラブで「通販」を開始しまし

 

 た。

 

 イベントの情報開示要請も無視、あちこちで開催しているようです。

 

 

 

 わたしは<イベントをやるな>とも<美術館をやるな>ともいっていません。

 

 <インターネット>もビジネスに利用しない正当なものなら、口出しなどでき

 

 ません

 

 正しい商品ならば<グッズ販売>もうれしいことです。

 

 ただ、<今の不当グッズ>は認められない、といっているのです。

 

 いがらしさんは多くの業者と契約してしまいました。後始末には相当な覚悟が

 

 いるだろうことも想像できます。けれど、このまま暴走しつづければ、ほんと

 

 うに 業界のモラル違反になり<アニメの再放送>も絶望的(商品の半分近く

 

 東映アニメの商標侵害のため)、グッズは刑事事件覚悟で<不正品>を売り続

 

 けるか、あるいは<悪質な業者>と手を組んだ<闇の商品>になるでしょう。

 

 今、収入があって凌げても一時のことで、<違法イベント>なども長くは続か

 

 ないはずです。

 

 そして、なによりわたしたちのキャンディ・・(いがらしさんは自分ひとりの

 

 キャンディ、とまだ言い募るのでしょうか?)がこのままだと息も絶え絶えに

 

 なるのです。

 

 勇気を持って<正道>に戻して下さい。

 

 

 

 今後は、もはや「個人の問題」ではなくなったので、水木杏子はこの件から引

 

 き、悪質な社会問題として水木の弁護士たちが、厳しく追求していくでしょう。

 

 もう、しかたありません。