日本アニメ宛内容証明郵便文


東京都中央区銀座7丁目10番11号
日本アニメーション株式会社
代表取締役 本 橋 浩 一 殿
 
平成13年4月25日
 
東京都港区西新橋1丁目19番6号
桔梗備前ビル4階
あおぞらみなと法律事務所
弁護士 伊 東 大 祐
 
前略 当職は通知人名木田恵子の代理人として本状に及びます。
 さて,貴殿もご存知のとおり,通知外五十嵐優美子氏から通知人に対し,漫画「キャンディ・キャンディ」を原作とするテレビ放映用アニメーションの制作に関し,許諾請求訴訟が東京地方裁判所に提起されております。
 しかし通知人は,昨年5月同氏のプロダクションである有限会社アイプロダクションの代理人弁護士から郵便にて企画書を送付され,一方的に許諾を求められたことがあるだけで,前記のアニメーション制作について,何らそれ以上の説明も受けておりません。
 本来なら,制作会社である貴社から詳細な説明があってしかるべきであると思われますのに,そのような行動は一切なく,突然五十嵐氏からかような訴訟を提起されたことについては,通知人は不愉快の念を禁じ得ない心境です。
 更に,当該訴訟において,原告は,貴殿作成と思われる本年2月1日付の「証明書」なる書面を証拠提出しております。
 それによると貴殿は,通知人の任意の許諾又は裁判所の判決が得られた際は,前記のアニメーションを制作することを五十嵐優美子氏に確約されたということであり,通知人のあずかり知らないところでまたもこのような企画についてのやりとりがされていることには,多大なる疑問を覚えます。
 かように原作者を無視・愚弄する状態に接しては,通知人は前記アニメーションの制作を許諾する意思は到底ありませんので,その旨お伝えします。
 また,貴殿に対し,次の点についての説明を求めます。
1 平成12年5月ころ有限会社アイプロダクション作成の企画書の作成に関し,貴社は何らかの関与をしているのか。
2 その後前記訴訟提起に至るまで,有限会社アイプロダクション又は五十嵐優美子氏と貴社との間で,どのようなやりとりがされてきたのか。貴社と有限会社アイプロダクションないしは五十嵐優美子氏との間で,前記企画書以上に何らかの取り決め等がされているのか。
3 前記「証明書」は貴社において作成されたものか。ゴム印・代表印等は貴社のものと思われるが,捺印された書面自体も貴社において作成したものであるのか。
4 貴殿は,有限会社アイプロダクションや五十嵐優美子氏から前記企画や前記訴訟の提起等を聞いていたものと思われるにもかかわらず,原作者である通知人に対し何らの説明等がないのはどのような理由か。
 以上の点について,文書で本状到達後1週間以内に通知人代理人である当職宛にご説明下さい。
草々
  




 
     アニメーションのリメイクについて
 
 
                  名木田恵子
 
 
日本アニメーションでの「キャンディ・キャンディ」のリメイクのことはこの<事件>の発端でもありました。
今回<リメイクの同意を求る裁判>を起こされたことについて、わたしの気持ちをお話したいと思います。
 
 
1995年、講談社との二次使用契約を解除したことの大きな理由のひとつが、いがらしさんから<日本アニメがキャンディのリメイクをしたがっている>と聞いたことでした。
講談社との契約を解除することは自動的に東映アニメとの契約も白紙に戻すことになります。
そうしないと、日本アニメでリメイクができない、といがらしさんにいわれました。
そのころ、わたしは<商標権><映像権>についてよく知らず、例えば映画の<伊豆の踊り子>のように製作会社が違ってもアニメーションを作り直すことになんの問題もないと思っていました。
しかし、
「キャンディのリメイクは<東映>が保持している権利関係もあり、そのままできないので続編を書いてほしい」
と日本アニメ側から突然いわれ、わたしは「話が違う」と拒絶しました。
 
率直にいわせていただけば、そのときから、いがらしさんに漠然とした不信感を抱き始めたように思います。
また、続編の話を拒絶したあと、今に至るまでなんの音沙汰もない<日本アニメーション>という会社についても、その後、不信感を抱き続けています。
思い返せば、発端である<リメイク>の話のときから、日本アニーションは原作者に対し全く誠意がありませんでした。<無視>していたといっても過言ではありません。
わたしからの働きかけで(いがらしさんに、”勝手に話を進めないで日アメに会わせて”といったことからの会見でした。いがらしさんと本橋氏は同郷の好でかねてから懇意でいらしたようです。)本橋社長にお会いしたのであり、また、スタジオにもわたしから本橋氏の秘書、高崎氏に連絡をして伺ったのです。
 
アニメ会社として本気でリメイクを望んでいるのならば<原作者>にも<正式>に話があるのが仕事をする上での<筋>だと思います。
日本アニメからは、<同意を求められる裁判>を起こされている<今、現在>でさえ原作者に対しての<正式な依頼>はありません。
この訴訟をおこされ、(今までなんの音沙汰もないのに、いったい日本アニメはどう考えているのだろう)とわたしは本橋社長に直接お電話しました。
本橋 浩一社長は、
「訴訟については関知していない(知らない)」
「円満な解決がなければリメイクなどできない」
と明言されましたが、その後、拝見した訴状には<日本アニメ、本橋浩一>氏の<証明書>が添えられ、この訴訟についてもよくご存知であったことがわかりました。
日本アニメがいがらしさんと共に、原作者の意志を全く無視し、このような<強奪>ともいえるやり方で、何故キャンディのリメイクにここまでこだわっているのか不思議でたまりません。
 
日アメサイドは水木杏子を一応、原作者と認めていらっしゃるようですが、全く一度も何の<依頼>もよこさずに、このような裁判に加担なさることは、それだけでも<日本アニメーションは信頼できない>と判断、<拒絶>できる理由だと思っています。
 
確かに、24年前、製作された東映アニメーション「キャンディ・キャンディ」は技術も古く、連載漫画のあとを追いかける形で製作されたため、内容も<みずまし>され、原作者としても当時、気に入っていなかったことは本当です。
しかし、わたしも年を重ね、さまざまな人達が、さまざまな思いでアニメーションに携わり、「キャンディ」という作品を愛してくださっていたことを知りました。
東映のアニメは確かに古くさくはありますが、いい作品は古びない___とも思います。
感動は絵柄の新しさや古さではなく、製作者の心意気が伝わってくることでしょう。
 
この事件がおこり、昭和53年におきた<キャンディのにせTシャツ事件>の判決文を拝見しました。そこには<漫画作品という生みの親><東映アニメという育ての親>とありました。
ある意味では、そのご判断は正しいと思います。なにより、わたしが感じいったのは<東映アニメのキャンディ>に携わった方達がその言葉を<誇り>に思っていらしたことでした。
 
しかしながら、この事件が起こる前まで無邪気にも<いがらしさんの絵柄に近いキャンディのアニメーション>をみたい、と思っていたことは事実です。
東映アニメーションが<リメイク>をして下さることが一番、平和的解決だと思いましたが、このたびの事件でいがらしさんが勝手に許諾販売した<おびただしいグッズ>は東映アニメの商標権を侵害しているものがたくさんあり、その<不正品>がひとつでも残っている限り、東映は過去のアニメの再放送はもちろん、リメイクをしたくても無理なことなのだと解りました。
その上、現在、いがらしさんは東映アニメを相手取って<商標権無効審判>の訴訟をおこされたので、さらに絶望的になってしまいました。
東映アニメにとっても大切にしてきた作品を<お蔵入り>しなくてはならなくなってしまう、という苦悩の状況です。
 
わたし自身、この5月で5年目に入るこの事件の波をくぐっているうちに、想いはすっかり変わりました。
いがらしさんが<原作者>をどのように見ていらしたかも、この間、いやというほど思い知らされました。
少しずつ、いがらしさんのキャンディの絵が見られなくなり、現在は全く見ることができません。
これはなんという不幸なことだろう……
当初はそう思って苦しみましたが、今、はっきりと解ります。
わたしの「キャンディの物語」はいがらしさんの絵ではなく、心に存在していたのです。
今は、いがらしさんの絵とは、<訣別>いたしました。
しかし、いくら<もう見たくない>といっても、わたしひとりの作品ではないので、原点である<漫画の本>としては残さなくては、と思っています。
 
いがらしさんは今も<水木杏子の原作はヒントでありペースメーカーでしかない>という論旨で上告中です。(上告理由書より)
原作者であるとはこの<同意を求める裁判>でも、<部分的>にしか認めていはいらっしゃらないようです。
そのような<サポート><スタッフ><ヒントを与えたペースメーカー>であり、また<参考著作物>しか書かなかったと主張し続けていらっしゃる<原作者>に何故同意を求められるのか全くもって<矛盾>に充ちていると驚いております。
 
 




 
 
以下に示すのは日本アニメーションが裁判所に提出した<証明書>です。
 水木が日本アニメーションの社長、本橋浩一氏に直接、電話でお尋ねしたとき、本橋氏は<訴訟については関知していない(知らない)>と明言されましたが、この書面をみて<2月1日>には裁判の準備をしていたことがわかりました。
また、裁判所において書面の不足を指摘され、下田弁護士は「近々、日アメサイドと協議することになっている」と答えています。
確かに訴状には<日本アニメーション>は名前を連ねていませんが、影の大きな存在であることは確かでしょう。
 
本橋氏とお話した際、
「ビジネスだから」
といわれた言葉が耳にこびりついています。
 
 
 
……………………………………………………
 
 
 
 
           
         証明書
 
 
 
 
当社は、五十嵐優美子氏に対し、漫画「キャンディ・キャンディ」(講談社刊。漫画:いがらしゆみこ、原作;水木杏子(本名・名木田恵子)の別紙企画書に従ったアニメーション製作について、水木杏子(名木田恵子)氏の任意の許諾または、裁判所の判決による許諾が得られる場合には、責任をもってアニメーション製作を遂行することを確約いたしました。
ここにこれを証明いたします。
 
 
          2001年 2月1日
 
          住所 *******
        
          名称 日本アニメーション株式会社
                      代表取締役 本橋 浩一








<日本アニメのリメイクの同意を求める裁判>の<訴状>が届きましたのでご報告
します。

・・・・・

* 請求の趣旨(大意)
被告(水木)は日本アニメーション株式会社に対し、「キャンディ・キャンディ」
を原作とするTV放映アニメーションの制作、放映を許諾せよ

* 証拠方法

1 本橋弁護士(いがらしサイド)が水木に送ったアニメ企画書
2 水木サイドの<返答書>(日アメでのリメイクは拒否)
3 証明書 (日本アニメ社長が水木の許諾が得られれば、別紙企画によりアニメ化を
行なう会社方針の表明)
4 日本アニメのパンフレット

いがらし氏代理人弁護士
花岡 巌 、 唐沢貴夫 (兼子・岩松 法律事務所)
本橋光一郎、小川昌宏、 下田俊夫
(本橋総合法律事務所)

・・・・・・・・・

日本アニメのリメイクについては、昨年の5月に許諾願いが届き、6月には
東映アニメの顧問弁護士とともに<おことわり>のお返事を送っています。
今回、いがらしさんの訴えは<ことわる正当な理由がない>ということのようです。

水木としては<著作権がない>と上告され、係争中でもあり<拒絶の理由>は
いくらでもあります。

水木がどうしても解せないのは<証明書>まで証拠に出した<日本アニメ>の姿勢です。
<原作者>がここまではっきりと<日アメでのリメイクを拒絶>しているというのに
なぜ、こんなに こだわるのでしょう。
日アメに対する<黒いうわさ>はいろいろ聞こえて来ていますが<うわさは噂>でしか
ない、と思われるので、ここまできたからは <日アメの社長、本橋浩一氏>に電話を
し、直接伺いました。
以下、そのお応えです。(訴状を読む前であったことをお断りしておきます)
・・・・
<日アメ社長、本橋浩一氏のご意見>

1 日アメとしては<水木杏子>を訴える<立場>ではない。
2 リメイクに関しては<すべて円満>に収まってからでないと、できない。
3 現在、なにも進行していない。

・・・・・・・とのこと、その良識あるご意見に少し安心しました。

しかし、この同意を求める裁判(力でねじ伏せ、許諾しろ、と迫っているのと同じと思います)
を起こされたことは、どういう結果になるにせよ<円満に収まる>事とはほど遠いことだと
思えます。
日アメ、本橋社長によると、今回いがらしさんが起こしたこの<リメイク同意裁判>には
<関知していない>そうですが、訴状を見た後では、そうも思えなくなりました。
しかし本橋社長のお答えが真実であるなら、今回の裁判はなんの意味もないことになります。

なお、この訴状では今までの<原作者は参考著作物を書いたサポート>から少し出世(?)
して
<水木は少なくとも部分的にはそのストーリーの原作者である>
・・・となっていました。